こういう人間です
盛岡市在住。ライター。
性格偏屈。趣味はないが嫌いなものはない。 20年余りの都会暮らし、 10年余りの山暮らしを 経て現在6年目のニュー タウン暮らし。 いまいるところがいつも いちばん好きなところ。 メールはこちらへどうぞ 以前の記事
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昨日は久しぶりの上京。いつものように日帰り取材。 本当はもっとマメに上京して打ち合わせたり、人と会わなければ いけないのだけど、暑いとつい腰が引ける。都心の冷房の効いた部屋から ムンとする外に出ると、鼻水やクシャミが出て寒気までしてくるから あの街の夏は苦手なのだ。ずっと暮らしていて平気だったんだけど、 そういえばわが家はクーラーなしで38度の夏を乗り切っていたな。 仕事が片づいて午後2時に同業の友人と待ち合わせて、ビヤホールに入る。 新宿駅前の地下にあるその店は有名なチェーン店だが、 階段を下りていくと店内のざわめきがワーンと外まで響いてきて、 「なんだこの騒ぎは?」と思わず入るのをためらう。平日に昼から 大勢集まって騒ぐのは学生ぐらいのもんだろうと思ったからだ。 そしたら広い店内のテーブル席のほとんどが60代70代の男女で 占められていて、なんだかみんな盛り上がっているのだ。 服装から判断すると、どうやら高尾山あたりに町内会で ハイキングに出かけ、その帰りに「暑いからビールでも」ということに なったらしい。みんなやたら元気で青春している。 ぼくらも50代末期(笑)でまあ、同類なんだろうが、数で圧倒されて しまった。隅っこのテーブルに腰掛けて小ジョッキの生、黒ビールなど チビチビ飲んでぼそぼそ話す。どうも気勢が上がらない。 「おい、ああいう明るい年寄りは嫌いだから、もっと偏屈なジジイの 集まる店で飲もう」と持ちかけると「そうしよう」となって お互い帰りが便利な神田に移動して駅前のS屋という昼酒の老舗に入る。 S屋は魚が旨い。マグロのブツ、タコ、アサリの酒蒸しなど注文して 熱燗も大徳利で2本。カウンターに座って店内見渡せば、いるいる、 一人酒のジジイ、2,3人で悪巧み中のジジイ、どの老人も一癖ありそうな 顔つきで、まだ昼の3時というのにじつに旨そうに酒を飲んでいる。 ぼくは20代のころからこの店で飲んでいたが、昔は一人だと どうも落ち着かなかった。まわりの年寄りにヒヨコ扱いされている気がした。 いまやっと、ゆったり落ち着いた気分で飲めるようになった。 それにしてもつくづく感じるのだ。近ごろ、落ち着ける店が少なくなった。 店じたいは気に入っても、にやけたサラリーマンが多かったり、 気取った中高年ばかりだったり、妙に人懐っこい常連客がいて、 「ックー!」とか唸ってビールを飲み干し、こっちに笑いかけたりする。 「いちいちうるさいオヤジだな」と目障りでしょうがないのだ。 流行のことばで言えば、酒飲みの品格が落ちている。気合いがない。 孤高の精神がない。寂寥感がない。何より自分の流儀がなく、 韜晦がない。酒なんぞ偉そうに飲むものでなく、世間の拗ねモノが自分を 慰める後ろめたい時間であって、そういう謙虚な気持ちでまずは 飲み始め、酔ううちに謙虚さが消えて大法螺を吹きまくるのが酒場という 魔界なのですよ。そこんところ、わきまえた酒飲みが本当にいなくなった。 しかしそんなことをぼくが言っても始まらない。 問題はいい酒場だ。神田のS屋はその点でいい。 それからときどき若い娘さんが入ってくるね。 これがまあ、年寄りの付き添いみたいなもんだから、初々しくて謙虚で、 周囲の気難しそうな年寄りにも気を遣って、 「いいなあ、ああいう娘が欲しいなあ」と友人と溜め息つく。 この友人も子どもは男の子二人でうちと同じだ。 ネクタイ姿のサラリーマンが入り始めたからもう5時は過ぎたな。 「ではそろそろ」と二人で腰を上げた。ずいぶん飲んだつもりでも 割り勘にすれば3千円もしない。 若いもんに老人酒場を譲った気持ちで、ふうらりふらりと、 還暦間近の男たちは駅に向かうのだった。S屋は冷房の効きも弱く、 しかも燗酒を飲んだから、外の夕風が気持ち良かった。
by northend
| 2008-07-15 21:01
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